紹介(11) 『文明化の過程』 著:ノルベルト・エリアス a1

プラトンとちがって、アリストテレスは「現に目の前に現れていることがらを肯定的に措定する」ところからはじめて、人々から高く評価されているもろもろの前提から出発する方法を選んだ。そうした前提とは、ギリシア人の大多数、もしくは彼らの中で事情に精通している人々(専門家、分別ある人)の意見に徴して、当該問題にとって有効もしくは有用と見なされていたものである。アリストテレスがこのような一般に受容されていた見解を最終的には修正するという場合もあるし、それにはそれなりの意義があるのだけれども、ここでの問題に関する限り、彼はそのような修正をしていない。おそらく異民族の問題の場合、特別な経験、専門知識、ないし知性をもちあわせなくても、彼らとは何者であるかを理解することはできたのであろう。ようするに異民族であるということは、せんじつめれば、気質と知性の(悪い)組み合わせに還元されたのである。 『古代ギリシア 自己と他者の肖像』ポール・カートリッジ 橋爪弦訳 白水社 2001年 81頁

 

われわれは、どんなものにも その起源はただひとつしかなかったに相違ないと考えがちであるが、いやしくも科学的理論、その発見と考察に関するかぎりでは、完全に独立し、並行する思想的系譜が2つ以上の地域に実在した可能性を、避けるわけにはいかない。『中国の科学と文明 第一巻 序編』 ジョゼフ・ニーダム ――訳 思索社 1991年 149頁 

 

墨家がここで、科学的な推論のさまざまな形式を定義しようと試みていることは、きわめて明白である。不幸にも、彼らはいわば模索中なのであり、、われわれは常にその原文に信を置けないことを勘定に入れなければならない。

……

(3) ’モデル思考’(model-thinking)は、(大自然の)方法を手本とすることにより成り立つ

 ’モデル思考’において手本とされるものが、方法である

 ゆえに仮にもしその方法が真に’モデル思考’によって手本とされる(文字どおりにいえば、その中心に当たる)ならば、推論は必ず正しくなる。

 しかし、もしその方法が真に’モデル思考’により手本とされないならば、推論は必ず不正となる。これが’モデル思考’である。

 

 このようにすれば、認識される原因の数は大量の現象よりずっと少なくなるので、このモデル思考は実際上演繹となるのである。

 このようなモデル思考に関する墨家の議論が、特に(しかしそれだけではないが)比較的精度の劣る科学において、科学的’モデル’の論理をめぐって交わされている当代の論議で進展されつつある考察と強い類似性を有していることは、必ずや読者の注意を引くに違いない。『中国の科学と文明 第二巻 思想史 上』 ジョゼフ・ニーダム ――訳 思索社 1991年 149頁

 

 現代において、科学者は科学的思考を示せない。概して、「これだ」と言うのみである。倫理学功利主義は科学者として、不適当な領域の設定なのだろう。時代は近代となり、学究機関が整備されて、どの文化・国であっても、自分の属する文化・国の伝統に勿体ぶり、回帰する知識階級の姿が観察される。第二次世界大戦以来、計算機科学の発展からなのか、言葉がモジュール化し、pradigm枠組みを与えsystem体系とする努力を否定する社会科学者が増えた。

 

 名詞に性が有ると考え方が違うのだろう。教育機関は問答形式を用いる。問題に対して前提となる体系は受け入れるしかない。前提を否定した問題は空虚である。ヒッポのアウグスティヌスは、著作の中で分派を否定し、教会の統一を強調した。ヘーゲルは「ミネルヴァの梟は迫りくる黄昏に飛び立つ」という表現に含めた。記憶の夢と現在とを混同したドン・キホーテも死に際には記憶と夢から覚めている。『春琴抄』の佐助は火傷を負った春琴の顔を見ないように焼いた針を目に刺した。

 

 対話『恋する青年と乙女』で少女に言い寄る青年は、なるほどかれが彼女から望むものを極めて露骨に口にする。かれは彼女に対する愛を告白し、抵抗する少女に対して、「あなたがぼくの魂を肉体から吸い取ってしまった」と語る。「子供を産むことは許されていることであり、良いことである」と述べ、もし自分が王として、彼女が王妃として子供や召使たちに君臨するようになれば、どんなにすばらしいかを説明する。こうした説得の仕方は、成人と子供の間の現代に比べて小さな精神的隔たりが、現代に比べて大きな身分的隔たりと当時うまく調和していたことを明確に物語っている。結局少女はかれの求婚に応じる。彼女はかれの妻になることの同意する。しかし、彼女は自分の処女性を大切にしたいと言う。彼女の言によれば、彼女は処女性をかれのためにとっておきたいと言うのである。彼女は接吻さえもかれに対して拒絶する。かれがどうしても接吻させてほしいと願うと、笑いながら彼女は答える。「あなたの言葉によれば、わたしはあなたの肉体からすでに半ば魂を吸い取ってしまったのですから、このうえ接吻などすれば、きっとあなたの肉体から魂をすっかり吸い取ってしまって、あなたをそのために殺してしまうのではないでしょうか」と。『文明化の過程 上』 ノルベルト・エリアス 赤井慧爾・中村元保吉田正勝訳 2004年 141頁

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